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四話「死亡原因(ウブ前編)」

yon羽『死亡原因(ウブ前編)』

線香の香りがする中、俺と八神そして久しぶりに会った坂目以外の人達は皆それぞれ思い思いに涙を流していた。

俺達は別に悲しくなかった訳ではない。

あまりに突然すぎて本当の出来ごとかどうか信じられなかったのだ。

しかし、線香の香りの中で透けた身体の寂しそうな顔をした親友を一瞬見てしまった。

・・・

友輔が死んだ。

つい三日ほど前に葬式に呼ばれた俺達は、身体に一切損傷の無い友輔の死顔が忘れられずにいる。

「死因は心臓発作だと。納得の損傷の無さだが、どう思う?」

三日ぶりに再会し我家に来た坂目はテレビに写るゲームの画面を見ながらそう言った。

イーナはその隣りで、画面のダンボールに隠れる兵士を見ながら赤福を食べている。

「どう思うって、なんだよ。」

俺はグラス三つにペットボトルから麦茶を注ぎながら坂目に言う。

八神はと言うとさっきからイーナの赤福をつまみ食いしようとして尻尾で手をはたかれ続けている。

何をやっているんだあいつは…。

「俺達がよく見るようになった奴等が原因なんじゃないかって事やろ?」

しばらくして赤福を諦めたのか坂目に代わって八神が応えた。

なるほど。殺されかけた者としてはそれは否定出来ない。

ブラックな会社に勤めていたとはいえ、若い同級生が心臓発作なんて不自然だ。

「そう言えばお前は憑かれたりしてないのか?」

麦茶を注いだグラスを八神に手渡しながら画面に集中している坂目に訊くと、坂目はゲームのコントローラーを置いてズボンのポケットの中身を放り出しながら答える。

「俺を誰だと思ってやがる。霊にも光学機器は効くみたいだしな。」

畳の床に転がるライトやレーザーポインターの数々。どれも軍用の凶悪な威力の代物ばかりだ。

ライトの明るさを表す単位はルーメン(lm)だが、床に転がるそれはどれも小型ながら200ルーメンくらいの出力がありそうだ。

レーザーはクラスⅢB以上なのは確かだろう。クラスとは、国が定めたレーザーの安全基準に基く性能を表す単位だ。

現在では通常の電器屋などではレーザーポインターの販売は行われていない。

八神は麦茶を一気に飲み干し一息吐くと

「ミリオタは霊からも自分の身を守るんかい…。」

そう言いながら苦笑いする。

俺が持つ光学機器の知識も坂目が教えてくれたものだ。戦う事に関しては頼りになる。

坂目は散らかした光学機器を素早く綺麗に並べると、かさ張らないようにズボンのポケットにしまい直した。

「お前等はイーナにでも助けて貰ってたんだろ。服に隠してるそれ、ステンレス製でも全く錆びない訳じゃないから気をつけろよ。」

坂目はそう言いながらイーナの頭を撫でて立ち上がると机の上にあったグラスのうち片方のグラスの麦茶を半分飲む。

イーナは不思議そうに坂目を見上げながら赤福の最後の一個をもぐもぐして首を傾けた。

何故ナイフを隠し持っている事がわかったか不自然なんだろう。

しかし、坂目は普段からナイフの隠し方などを模索研究していたりする変じn…ミリオタなので不自然でも何でもない。

部屋の中はクーラーで涼しいが、乾燥するので喉が渇く。

俺も残った一個のグラスの麦茶を少し飲む。

「甘い物食べてたら喉渇いた。」

イーナはそう言うと立ち上がり赤福の空箱を2メートルほど離れたゴミ箱に器用に投げ入れ、俺が机に置いたまだ麦茶が半分以上残っているグラスを手に取った。

「新しいコップ持って来ようか?」

俺がそう声をかけ立ち上がろうとすると、

「ん、いらない。」

とすぐに返事をしてイーナは入っていた麦茶を飲み干す。

「ふう…海月、敵討ちしたい?」

そして一息吐いてそう言った。

・・・

電車を乗り継ぎ数時間かけてやっとたどり着いた場所は、夕方とはいえ晴れた真夏なのに蝉の泣声すら聞こえず異様に静かだった。

「友輔の遺体が発見されたのはここ、慰霊の森入口前。私が原因で友輔は見えちゃいけないものが見えるようになり、自身の力を過信してここに来た。そして憑き殺された。」

イーナはさらっとそんな事を言ってみせる。

かつて、この森の上空で旅客機と戦闘機の衝突事故がおきてそして墜落した。

それはもう大惨事で、それ以来ここは心霊スポットとして有名になり今では某掲示板のオカルトスレッドの住人ですら近付くのを嫌がる場所となっている。

「そんな事、何処で調べた?イーナ、お前は葬式にも居なかったはずだ。」

坂目は驚いた表情の後、強い声でイーナを問詰めた。

だがそれにイーナは堂々と

「別に、大した事はしてない。私は人間じゃないから憑かれない。それに霊を刺せるし弱いものなら消せる。だから、浮遊してる霊を脅して友輔について訊いただけ。」

なんて言って答える。

これは酷い。

イーナがその気になれば何処で何をしていてもすぐばれるという事だ。

だが守ってくれてるわけだから、しょうがないのだろうか?

俺が一人考えこんで居ると、イーナは側に来て

「大丈夫。本当に必要な時しかこういう手段は使わない。」

そう言う。

「…本当か?」

俺の質問にイーナは頷いて答えると、八神と坂目に手招きした。

二人がやって来ると、小声で「電車の中で作戦を考えたから聞いて」と言って俺達に屈むよう促す。

「八神達もさっきから霊みたいなのを何人か見てるかもしれないけど、あれは皆人を殺せるほど怨みとか強さとかを持ってない。つまり、友輔を死に追いやったのはもっと怖いもの。」

イーナの真剣な話を聞いて、八神が小声で「ほ、ほんまに?や、やっぱやめへん?」とか言いながらびびる。

ヘタレめ。と、言ってやりたいがまた邪視みたいなものと戦うと思うと気が引けるのは確かだ。

「さっきから赤ちゃんの泣声みたいなのが遠くから聞こえてるのがわかる?」

八神を無視してイーナは話を続ける。

耳を澄ますと微かだが、何か聞こえる気がする。

俺が小声で「あぁ。」と答えるとイーナは

「あれはウブという化物の声。巨大な蜘蛛の姿で顔は人間の赤ちゃんによく似ている。人を襲い命を奪う。ウブは生まれてすぐ死んだ赤ちゃんが母親を求める感情のあまり変化した姿。」

と、続けて言う。

ウブとは、確か福島県などに伝わる妖怪の名称だ。

一般的には妖怪と霊とは別物とされている事も多いが、見えるようになってわかる事は妖怪とは霊が変化を遂げた存在であって別物ではない。

「どうすればそいつに勝てるんだ?それが友輔を殺ったんだろ。」

坂目はそう言いながら、ズボンのポケットに入っていたレーザーポインターを一本取り出す。

イーナは頷いて答えると

「お前の母はこれだ、と言って物を投げるとウブはそれを見る。油断したウブを、私を使って海月が撃てばウブは消えて敵討ちになる。」

そう言って立ち上がった。

つられて俺達も立ち上がる。

赤ん坊の泣声は少しづつ近付いて来ているようだが、まだ距離がありそうだ。

坂目が

「俺は物を投げて呪文を言えば良いわけか。」

と言うのを聞いて八神は

「じゃ、じゃあ俺は何すればいぃんや?」

と少し震えながらイーナに訊く。

イーナは

「もし、失敗したら私が足止めして海月達を逃がす。その時は海月と坂目を連れて逃げて。」

そう言って珍しく笑顔で八神を見る。

まるで映画などでよく見る「俺が死んだら後は頼む」と言う台詞を見た後のような何となく寂しい気分になったが、作戦とおりなら失敗はしないと思った。

そしてイーナは俺達の後ろを振り返り

「…やっぱりついてきた。そこで見てて。」

と呟いて俺の手を引き、夜になり暗くなった慰霊の森の階段を歩きはじめた。
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五話「敵討ち(ウブ後編)」

誤輪『敵討ち(ウブ後編)』

階段は思ったより長かった。

頂上付近に到着し、坂目のフラッシュライトの明かりが辺りを照らすと慰霊の森と刻印された石碑が見える。

「海月。」

イーナに呼ばれて俺が隣りを見ると、イーナは俺の目を見つめて来た。

寒気がして緑色の瞳から視線を逸らせなくなり、繋いでいた左手に重みを感じる。

邪視の時と同じようにイーナは銃に姿を変えた。

「寒!?…何とかならないのかこの寒さは…。」

俺が溜息混じりにそう言って銃を見ると耳元で、イーナの「…それは無理。我慢して。」と言う声が聞こえる。

「お前…狐の耳と尻尾が生えてるぞ。その銃はイーナの媒体だな…。」

坂目は驚いた表情をしてこっちを見て来たが、少し考えた後「あぁ、私を使ってってのはそう言う意味か。」と何か納得した様子で呟いた。

狐の耳と尻尾か。

確かに後ろを振り返ると、少し揺れる毛の塊のような物が一瞬見える。

しかしまぁ、狐耳男子なんて誰得なんだ?

そう思いながら銃をしっかり構えて、マウントレイルに搭載されたミニダットサイトのカバーを外す。

スイッチをオフからオンに切替えると、緑色の点がガラスで出来たレンズに写される。

ふと気がつくとそこそこ近い距離で赤ん坊の泣声がした。

八神はびくっと身体を震わせ、坂目は冷静に声のした方をライトで照らす。

休憩所の方だ。

休憩所の中で何か大きなものが動いている。

耳元で「居た!狙って!」と声がして、俺はその大きなものに狙いを定め引金を引いた。

モーター音と共に6ミリ弾が撃ち出され、捉えたかと思ったが大きなものは驚くほど素早い動きで弾を交わしてこっちを見る。

蜘蛛の身体、赤子の顔。その顔が笑顔でこっちを見て、走って来た。

「化物め!」

そう叫びながら俺はひたすら引金を引くが、ことごとく交わされてしまう。

こちらに到達するまで後10mに迫って来た所で、坂目が目で合図をして来た。

「お前の母親はこれだっ!」

合図の後すぐに坂目はそう叫びながらライトを左前に投げる。

ウブはすぐにそれに反応してライトの方を向き、俺はその隙にダットサイトの標準を定め引金を引いた。

「やったか!?」

思わずそう言った俺の頭を坂目は平手で叩いて

「その台詞はやってないフラグだろ!止めろ!」

と怒鳴る。

ごもっともだが、暴力反対だ!

今度は命中したが、胴体に大きな穴を空けたままウブは奇声をあげこっちを見る。

まだ動けるようだ。

耳元で「まだ弾はある。疲れてもない(バッテリー残量もある)からフルオートを使って。」とイーナの声が言うと同時に、セレクターを切替え引金を引き続けた。

・・・

終わった…

長い階段を降りながら右手を見ると、もう銃のグリップはそこには無くて変わりにイーナの小さい手が握られている。

「どうかした?」

繋いだ手を見ているとイーナは不思議そうにこっちを見上げて訊いてきた。

「いや、何でもない。フルオートの振動がまだしてるような気がしただけだ。」

俺がそう答えると、イーナは

「早く慣れた方が良い。」

と言い右手を両手で抱くようにして身体を寄せて来て前を向く。

「それにしても、海月があいつを撃ち消した後振り返った時はマジでビビったぜ。」

すぐ後ろで坂目が笑いながら言う。

「な、何や!しゃーないやろ!あんな化物見たんやで!?普通の反応や!」

俺と俺の腕にしがみつくイーナの隣りで、八神は顔を真っ赤にして怒った。

だが、確かにあれは酷い。

「死ぬか殺るかの戦いの後、振り向いたら白目むいて立ってるとか怖すぎだろ。憑かれたのかと思ったぜ。」

俺はただただ事実を言う。

まぁ何にせよ憑いたわけじゃ無くて良かった。

階段を降りきる直前、見知った人が下に立って居るのが見えて俺達は足を止めた。

そいつはまるで「よぉ!」とでも言うかのように軽く片手を上げて、

「無茶すんなよな。心配で逝けねぇじゃん。」

とか言って来る。

だがイーナは友輔がそこに居るのを知っていたかのように

「敵はとった。友輔、これで未練は無いはずだから逝けなくなる前に逝った方が良い。」

と言いながら俺の腕にしがみつく手の力を強めた。

一瞬イーナの緑色の瞳が透けた身体の友輔を睨んでいるようにも見え、俺は少し動揺したが友輔は

「おいおい、止めろよ。連れてったりしないって。お前ほんと海月の事好きだな。」

と笑顔で言って「じゃあな」と言いながら消えてしまう。

最後に耳元で「たまにはお参り、来てくれよ」と言われた気がして俺は辛くてしばらく涙が止まらなくなった。

すぐ隣りからも泣く声がして、きっとあの時八神も坂目も泣いてたんだと思う。

帰りの駅に着く頃には空はすっかり明るくなっていて、俺達は始発の電車で帰路へと着いた。

四輪後日談『墓』

家から徒歩30分くらいの場所に家の母方の祖父さんと祖母さんの墓がある。

その隣りの土地に友輔の墓は建てられた。

花は何が良いか分からなかったが事前にイーナに初めてのお使いとして墓参りの花を選んで来てくれと頼んだら、スーパーの店員がそれっぽいのを選んでくれたらしい。

田舎のスーパーの店員は親切だ。

ズボンの後ろポケットから普段あまり使う事のないジッポを取りだし線香に火を点け、軽く息を吹いて墓に供える。

友輔の姿は見えない。

成仏したのか友輔家に居るのかはわからないが、とにかく本人が居ないのに線香を供えても意味無いと言いたげにイーナは欠伸をしている。

だが俺は

「手合わせて一応拝むぞ。」

とイーナとここに居ない友輔に言って手を合わせた。

二日前に行った慰霊の森と違い目を閉じると蝉の声と風の音がより大きく聞こえる。

「帰りにアイスクリームが食べたい。」

手を合わせるのをさっさと止めたイーナはその手で俺の服を軽くつまんで、そうせがんで来た。

「そうだな。アイス食ってさっさと帰るか。」

そう言って歩き始めると墓はあっと言う間に見えなくなった。

・・・

コンビニの前の日陰に二人で立ちながら期間限定のプリンソフトを食べていると携帯が鳴る。

俺の携帯はガラケーとか言われる旧式で最近流行のスマートフォンでは無い。

もうこの携帯とも三年の付き合いだ。そろそろ買い替え時かもしれないな。

片手で携帯を開き画面を見ると八神からのメールが受信されている。

「八神、ついにフリーター卒業か。」

メールの内容を見てそう呟きくすっと笑う俺を見て、イーナも嬉しそうに笑った。

(BGM:岸田教団&THE明星ロケッツ  literal world )

六話「霊の居ない家(創造される者前編)」

七話「のべすけ(創造される者中編)」

名Na輪『のべすけ(創造される者中編)』

ギターケースの中身はストックを折り畳んだライフルだった。

それを見て坂目は立上がり

「おぉ…凄いのが出て来たな。G36Cカスタム、次世代電動ガンだぞ。」

とか感嘆の声を上げる。

Gというアルファベットが前に付いた名前のライフルにはドイツ製の物が多く、GとはGewehr(小銃を意味する)の略語らしい。

G36とは36番目の小銃と言う意味であり、Cとはコンパクトの略語だ。

まぁ、目の前にあるこれは日本製の玩具なわけだが。

マガジンを二本繋げたダブルマガジンを装填し、バイポットに変形するグリップを着けて、アメリカンディフェンスと書かれたミニダットを搭載した姿はイーナの銃になった時の姿によく似ている。

襖を開けて八神が戻って来た。

「うわ!坂目…それ持って来たんか?」

驚いた声でそう言いながら坂目に軽く軽蔑の目を向けて、俺達の側で布団の上に座る。

坂目は銃のバレルに付いていた赤い保護キャップを外しながら

「んなわけあるか。もし銃を持って来ていたとしてもライフルは重い。イーナみたいに、幼女の姿で後ろを歩いてついて来るならまだしも。」

とか面倒くさそうに言った。

幼女の姿で後ろを歩いてついて来るライフルこと、イーナは俺を見て

「私も銃になった方が良い?」

と訊く。

俺はイーナの頭を撫でて

「いや、大丈夫。だけど何でライフルが押し入れの天井なんかに…?」

と答えて呟く。

次世代電動ガンは高価だが、わざわざ天井裏のような取り出しにくく分かりにくい場所に隠さなければならない物では無い。

「押し入れって、ここの押し入れの天井か?ノート見つけた場所やん。」

頭を撫でられて目を細目るイーナを見ながら、八神は言った。

やっぱりか。

ならこの電動ガンも普通では無い可能性がある。

一瞬ギターケースの上に置かれたライフルから目を離した瞬間

「やっと出れたかと思ったら、まさか僕以外の銃精を見る事になるとはね。」

と言う声がしてギターケースを見直した。

「うぉ!?」

「ちょっ!?」

坂目と八神はほぼ同時に驚き、声を上げ八神は大袈裟に後退りしている。

ギターケースの上には銃の代わりに少女が立っていた。

背丈はイーナとほぼ同じ。

緑の髪にはクローバーに似て異なるマークの飾り、紅い瞳、猫のような垂れた耳と狐や鼬のような尾。

あのマークはM4ライフルのカスタムパーツで知られるノベスキー社(通称ノベスケ)のマークだ。

十字の斧を意味するマークらしいが、ギターケースから出てきたG36Cについていたアイアンサイト(金属製簡易照準器)に描かれたマークも十字斧だった気がする。

イーナの髪がツインテールなのに比べて、少女の髪はボブカットに近いようなショートヘアーでとてもボーイッシュな雰囲気だった。

「ふふっ、初めまして。僕は物を媒体とした人工生命の試作第一号、キルシュノベスケ。まぁ僕みたいな銃の玩具が媒体になってるものは銃精って言うんだけど。僕の事はのべすけって呼んで良いよ。」

のべすけと少女は名乗って八神に手を差し延べる。

「イーナと同じようなもん…なんか?」

八神はそう言いながら慌ててのべすけの手をとり立ち上がると、横目でイーナを見た。

「まぁそんなとこかな」と八神の質問に答えたのべすけは、イーナを見て

「3人とも君の影響を受けてるようだけど、君は誰のものなんだい?」

と不思議そうに首を右に傾けて訊く。

イーナは俺の右手を両手で掴み

「海月の。」

と一言だけ言って答えた。

「海月君、君はその歳であのミミズが這った後のような読みにくい旧字体が読めたのかい?いや、それともそこの二人が…?」

のべすけは俺の顔をまじまじと見つめて怪訝そうな表情で訊いてくる。

大人びた口調がどうも気に食わない奴だが、何か色々と知っているらしい。

旧字体とは、多分あの古いノートに書かれていた文字の事だろう。

実際現代文に訳された文字があった部分しか読めなかったわけだが、馬鹿にされたようで腹が立つ。

「作り方のところだけ普通に読める文字で書かれてた。お前は誰のものなんだ?押し入れの天井に置かれてたんだ。そうとうヤバいものなんじゃないのかよ?」

俺の解答と少しの苛立ちを込めた質問を聴いて、のべすけは溜息を吐き「あぁなるほど」と呟いた後

「僕はこの家のおじいさんによって作られた。だからおじいさんのものだった。どうやら僕がしまわれている間に、亡くなったみたいだね。」

と少し寂しそうに言う。

それを聞いて八神は

「うちの祖父さんがお前を作ったって…何のために?」

と、首をかしげた。

・・・

何処の家の風呂場も浴槽の広さはあまり大差はないんだなぁと、そう思いながら湯船から窓の外の星空を見る。

間の悪い事に八神の疑問にのべすけが答える前に風呂が沸いたと八祖母に呼ばれ、俺達は順番に風呂に入る事となったわけだ。

「窓が開いてるのに全然涼しくない。」

疲れたような声でそう言いながら、恨めしそうにイーナは湯船を眺めた。

っていやいや、何で入って来てるんだよ。

「イーナ。順番に入るよう言われただろ?」

俺は目線を隣りに向けないようにしながら言う。

「のべすけに背中流してきてあげなよって言われた。」

イーナはそう言いながら頭上に乗せていた短いタオルを湯船に浮かべて、その両端を湯船の中で中央に寄せた。

タオルの中に集められた空気でタオルの上部が湯船に浮く。

のべすけめ、余計な事を…。

「と、とりあえず、せめてタオルを身体に巻くとかしろよ。」

俺は自分が入る時に持ってきた大きめのタオルをイーナの方に投げ渡す。

イーナは

「海月に見られても困らない。私は海月のものだから。」

なんて言いながら水面を揺らした。

ちゃんと渡したタオルを身体に巻いているらしい。

水面の揺れが治まったのを確認してイーナの方を見る。

白く細い身体はタオルで隠されていても魅力的で、背の低さからか儚げな雰囲気もあり変な気をおこしてしまいそうになる。

「俺のものって言うの、やめろよ。」

俺はそう言いながら洗い場の方に向き直り、腕だけを浴槽から出した。

確かに媒体となった電動ガンは俺のだけど。だからってイーナの全てが俺のものと言うのは違う気がする。

イーナは困ったような表情で

「私は海月に望まれたから今も此所に居るの。だから海月のもの。」

なんて言うのだった。

・・・

風呂から寝室に戻ってきた俺達を見てのべすけは笑顔で

「やぁ、楽しかったかい?」

とか言いながら、三つ敷かれた布団の上を左右に転がっていた。

八神は風呂へ、坂目はヘッドホンで音楽を聴きながら何やら考え事をしている。

「何のつもりだよ。」

俺は苛立ちを込めた声でそう言うと、のべすけの服を掴んで子猫を持ち上げるように立たせ視線を合わせた。

しかし、のべすけは溜息を吐いて

「酷いなぁ。僕は君の為にイーナちゃんにアドバイスしただけなんだけど。」

と言い苦も無く手から逃れると一歩離れて冷静な表情になる。

「お、お前に俺とイーナの仲なんて関係ないだろ。」

俺は視線を逸らすとそう言葉を吐き捨てて布団の上に座った。

イーナも俺の方を見て真似するように隣りに座る。

のべすけはその様子を見ながら、やれやれと言いたげに肩を竦めて

「確かにそうだね。でも良いじゃないか。君はもうその子が居ないと霊にいつ憑き殺されてもおかしくない状態なのは自覚しているんだろう?イーナちゃんと一生を供に過すんだから、お風呂くらい一緒だろうと何の問題も無いさ。」

などと言う。

「いや良くないだろ。仮に俺が色々欲望に負けたりしたらどうすんだよ。」

俺が言う事の意味をイーナは理解出来ないらしく、首を傾げている。

だが口調と同様に大人びているのべすけは意味が理解出来たらしく、

「大丈夫大丈夫。仮にそうなっても銃精は子供なんて出来ないからね。」

と笑って応えた。

イーナと余り背も変わらないのにマセてんなこいつ。

「のべすけ、お前いったい何歳なんだ…?」

俺は恐る恐る訊いてみる事にした。しかし、のべすけに口の前に人差し指を立てられ

「女の子に年齢を訊くものではないよ?」

と、言われるだけで答えては貰えなかった。





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