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プロローグ 一話「MK17」

プロローグ

社会人一年目の夏。

恋人の居ない俺を含めた四人は、肝試しと称して毎日のように深夜廃墟に行って暇を潰して居た。

そんな小さな冒険にも飽きはじめた頃。

四人のうちの一人が実家の押し入れの天井にあった隙間から見つけたという古いノートを持ってきた。

そのノートに書いてあった'物を媒体とした疑似生命の製造,を行った事、それが全ての始まりでありこの怪談録を書くに至ったきっかけである。

異チわ『MK17』

あの夏の日の出来ごとから丁度一年となる今日、今朝の話。

バトルライフルスカーヘビー次世代電動銃。これが今目の前で朝ご飯の卵焼きを食べながら、テレビに写る今日の犬(番組名)を真剣に見て居る狐耳幼女の正式名称だ。

その隣りで

「犬より猫の方がいいかなー」

と言いながら木製の机の中央にあるドクターペッパー(炭酸飲料・香りがキツい)に手を伸ばす男。あれは我家に居候している幼馴染みのフリーター八神 新兎(やがみ にいと)だ。

親友の中では背も高く茶髪。わりと頼りがいのある男なのだが、最近会社をクビになったらしく今は我家に居候している。

会社の寮に住んでいた為、両親には会社をクビになった事がバレていないようだ。

八神はドクターペッパーを一口飲むとこちらを向いて

「今日は俺休みやし、留守番しとく」

などと言い奇妙な匂いのコーラもどきの蓋を閉めた。

「何が休みやし、だよ…。居候してんだから洗濯物よろしく。」

俺は食べ終わった食器を片付けながら、八神に背を向けて言い仕事用鞄を手に取る。

今日は日曜日だ。多くの一般人は休みだが、料理関係の仕事ではそうはいかない。

鞄の中身をチェックし終わった俺を見ながら八神は、

「しゃーないな。イーナちゃんに手伝ってもらお。」

と呟く。

イーナとは、今日の犬(番組名)を見終わり退屈そうに欠伸をしている狐耳幼女の呼名だ。

去年の夏。

物を媒体とした疑似生命の製造に成功してしまった事で生まれた狐耳幼女に、その場に居た四人のうちの一人である坂目が名付けた。

何故イーナかと言うと、媒体である電動ガンの元となった銃がアメリカ軍に正式採用された時の番号が17だったからと言う事らしい。

鞄を持ち玄関に向かう。

車の鍵を持った事を確認していると、居間から小走りで歩く音が聞こえる。

「海月、今日は赤福買って来なくていい。」

声に気付き振り返ると、イーナが俺の服の端を手で摘みながらこちらを見上げていた。

俺の事を下の名前で呼ぶ人は親友以外ほとんど居ない。

くらげなんて名前だと大体の人は気を使って三代治で呼ぼうとするからだ。

昨日の夜イーナに誕生日プレゼントは何が良いか訊いたら赤福と答えたのだが、いらないと言う事だろうか?

「ん?やっぱケーキの方が良いか?」

俺の問いにたいしてイーナは首左右に小さく振り、ついでに尻尾も左右に振って答えた。

「まぁいいや。じゃあ何か代わりに…」

何かいるか、と言い終わる前にイーナの声がそれを遮る。

「いらない。早く帰って来て。」

緑色の瞳で真剣に見つめて言うイーナを見て、何か心にぐっときた俺はイーナから目をそらして左手で頭を撫でながら

「わかった。行って来る。」

右手で玄関のドアを開けた。

・・・

「山野海月先輩ぃ!今日で心霊体験し始めて一年目ですね!今年の意気込みをどうぞっ!」

職場の厨房に入ると同時に後輩の巳竹(みたけ)が元気に声をかけてきた。

巳竹はネットの心霊サークルでは有名で、独男四人組み以外で唯一イーナについて知っている女だ。

と、言うのも四人のうちの一人の友輔(ゆうすけ)がたまたま某有名掲示板に書き込んだ心霊体験談やイーナについての話をネタや釣り(ネット上で他者を意図的に騙す行為)だと思わず真剣に信じた挙句、イーナ見たさにこの町にやって来て同じ職場に就職して来たと言うとんでもない奴だからだ。

「意気込みなんて無いな。とりあえず今日はイーナの誕生日でもあるわけだから、プレゼント何にするかが悩みだ。」

調理器具を用意しながら巳竹に返事を返す。

世間が休日だと厨房は忙しくなる。憂鬱だ。

巳竹は昨日のうちに切り揃えられた食材を冷蔵庫から出しながら満面の笑みで

「ふっふっふ~!私はすでに準備してありますよ!眠猫(猫のキャラクター)ビッグ縫いぐるみです!!」

とか騒いで居る。

この店の開店時間は昼一時から。今ならどんなに騒ごうと客には聞こえない。

・・・

開店してから今まで休む暇など無かった。

最近は不景気で経費削減として二人での働く事が多い。

俺も巳竹も壁や冷蔵庫に持たれながら時計を見て居る。

仕事終了時間の八時になると事務所(ほぼただのロッカー置場)に行きタイムカードを押した。

仕事が終わった仕事場に用なんて無い。

店のすぐそばにある舗装されていない駐車場まで行くと、巳竹も後ろを付いて来た。がさがさと五月蠅い。

車の前で鍵を出しながら振り返る。

俺より少し低い程度の巳竹の背の半分くらいはあろうかというセガと書かれたビニール袋の中身、それが眠猫の縫いぐるみとやらだろう。

重そうにしながら巳竹が文句を言ってきた。

「先輩~!早く車のドア開けて下さいよっ!これ重いんですから!」

こいつ…乗せてもらうのが当たり前だと思ってやがる…。

「その重い縫いぐるみ、イーナに渡したとしてイーナがそれ持てると思うか?」

俺は文句に文句を返し、車のドアを開けた。

巳竹は俺の仕事用鞄をひったくって助手席に苦労しながら乗ると、膝の上に眠猫と鞄を乗せて

「さぁ行きましょう!あ、先輩もプレゼント買わないと。」

そう言うと助手席のドアを閉める。

・・・

駐車場からすぐ近くにある道路に出た。相変わらずこの車は揺れる。

「前を走ってる車、何かヤバそうなのが乗ってますねぇ…。」

しばらく進むと前を走る2tトラックの荷台を指して、巳竹は嫌そうな顔をしてそう言った。

巳竹の指した辺りを見ると確かに黒い人のような何かが張り付いているのが見える。

「またか…。最近黒い奴をよく見るんだが、何なんだあれ?」

巳竹は俺の質問にしばらく考えた後

「呪い…念の類いですかね。霊とかとはちょっと違いますけど、車間距離とって下さい。」

得意げに答えた。

イーナと出会った場所に居た、あの時の俺を含めた四人全員が一年前の今日から奇妙なものが見える体質になっている。

特に最近はよく見るようになってしまった。

巳竹は心霊サークルなんてものに入っているだけあって、恐山などの霊山に何度も足を運んでいるうち見えるようになったらしい。

信号がある交差点まで来ると、トラックは右折して行く。

赤福の店があるのはその辺りで、ケーキ屋はその先をもう少し行った所にある。

「あまり後ろを走りたく無いんだが…しかたないか。」

俺が溜息混じりにそう言いながらハンドルを右にきってすぐ、巳竹は左側にあるAMPM(コンビニ)を指して

「じゃあ、コンビニに車止めて歩けば良いんじゃないですか?どうせケーキ屋の駐車場狭いんですし。」

と提案してきた。

このままあのトラックの後ろを走り、やっかい事に巻き込まれるのもごめんだ。

「じゃあそうするか。」

俺は提案に賛成して車をAMPMに停めて車を降り、そして歩き出そうとした瞬間

爆発音がして巳竹が尻餅をついた。

「うわっ!?な、何なに!?」

腰が抜けて立ち上がれない巳竹の手を引きながら赤福の店がある辺りの道路を見る。

そこには爆発炎上するトラックとトラックの後ろを走っていたと思われる軽自動車の残骸、さらに爆発の一番の原因となったであろう横たわったタンク車があった。

トラックの運転席が開くのが見える。運転主はまだ生きているようだ。這い出ようとする運転主だったが、それを黒い何かが車内へと引込み

再び今度はトラックの燃料タンクに火が廻り爆発した。

声も出せず立ち尽くして居ると左手を強くひっぱられて驚いて左側を見ると、巳竹が何とか立ち上がって

「…さっきの、見ましたよね?」

と言っている。

俺は絞り出すように

「あ、あぁ…。警察に事情聴取とかされたら帰りが遅くなりそうだし、ケーキ買ってさっさと行こう。」

言いながら炎上するトラックを避け少し遠回りでケーキ屋に向かった。

・・・

ケーキを片手に玄関を開けるとすぐ、待って居たのは少し怒った顔をしたイーナだった。

「…いらないって言ったのに。」

イーナはそう言いながら俺の周りを一周して、少し俯きながら

「怪我はしてない…?」
呟いて安心したような表情を見せる。

「大丈夫。ごめんな。ちょっと遅くなった。」

俺が苦笑いして言いながらイーナの頭を撫でて靴を脱ぎ部屋へ入ろうとした瞬間玄関で、イーナが巳竹に

「不満だけど、ありがとう。」

と言って居るのが聞こえた。

異チわ後日談『17と誕生日』

いらないと言ったくせに、結局イーナはケーキの上の板チョコに書かれた'いーなちゃんお誕生日おめでとう,の文字を見て尻尾を振りまくりケーキを喜んで食べていた。

八神の用意していたプレゼントはサバイバルナイフ。幼女へのプレゼントにナイフってどんな選択だよ…とは思ったものの、貰った本人はナイフを構えてみたりして楽しんで居たので良かった…のだろうか?

巳竹は予告通り眠猫縫いぐるみを渡していたが、イーナはどうも椅子や踏み台として使うつもりらしく、途中から縫いぐるみに座りながらケーキの残りを食べていた。

俺はと言うと、プレゼントがケーキだけでは流石に…だったので'あいぽっとなの(流行の多機能音楽再生機),をプレゼント。

つい最近カラオケにイーナを連れて行った時、もっといろんな歌を歌いたいと言っていたからだ。愛用のPCに入っていた曲を適当に入れておいたのだが、その日の深夜こっそり起きて居たイーナはさっそくその中から一曲選んで歌っていたらしい。

(BGM:nanoRIPE ハイリープ)

最後に、あのトラックに乗っていた運転主が事故の数日前に離婚しており運転主の元奥さんが自殺していた事をテレビで見た警察の調べで知った。
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二話「17にできる事(邪視 前編)」

煮話『17にできる事(邪視 前編)』

電車の車内。

揺られながら、外の景色を見ていると学生時代を思いだす。

遅刻しそうになった朝。教室に一番乗りしていた俺と、必ずすぐ後にはやって来て居た変わり者な奴との会話。今は亡き八神家の祖父さん。海外出張に行く前の親父と母親。

社会人になると車に乗るようになり、電車に乗る事も少なくなっていった。

「海月、持ち上げて…。」

後ろから声をかけられ振り返ると、疲れた顔をしたイーナがこっちを見ていた。

進行方向の窓から外が見たいらしく、先ほどからイーナは背が足りないのを補う為飛び跳ねて見ようとしていたようだが流石に疲れてきたらしい。

「よっと…これで良いか?」

俺はイーナを縫いぐるみを抱えるように持ち上げて軽く声をかけた。

「うん。」

イーナは嬉しそうに返事をして尻尾を静かに左右に揺らす。

ガラス窓に微かに反射して見えるイーナの緑色の瞳には、一瞬と言うには少し遅いかもしれない速度で過ぎ去っていく木々や古い民家が写っていた。

俺が座っていた席のすぐ隣りから巳竹が

「おぉ流石男の子ですね先輩!背が低いとはいえ女の子を軽々と!」

などと茶化してくる。

巳竹の膝の上にはノートが2冊。

一冊は表紙に記録と書かれた古いノート。あれはあの日以来、発見者である八神が持っていた物だ。

もう一冊のノートには怪談記録☆と書かれて居る。あれの中身は巳竹が体験した怪談や御払いした神社などだ。

車ではなくわざわざ電車に乗って移動しているのは巳竹が「どうしても電車で移動したいんです!私が案内するんですから、良いですよね?」と言って来たせいなのだが、楽しそうにしているイーナを見ると電車も悪くないなと思えてきた。

ちなみに、八神はハローワークに行っている。不景気な世の中で職探しは大変そうだ。

「イーナは軽いからな。と言うか媒体になった電動ガンと同じくらいの重さしかないんじゃないか…?」

俺が巳竹に話しかけている途中で電車は駅に着く。

名残惜しそうに車内を振り返りながら歩くイーナの手を引いて、俺達は駅を後にした。

・・・

俺の家がある町も田舎だが、隣り町はもっと田舎だ。

巳竹を先頭に歩く俺達は田園風景を右へ左へ移動して行く。

蝉の声と日の光が容赦無く俺の体力を奪う。

イーナは一見平気そうな顔をしているが、電車に乗るまでの待ち時間の間に四本もの缶ジュースを空にしている。

「ほんと、この辺は何も無いな…。」

俺がつまらなさそうに愚痴をこぼす後ろで、イーナはこっちを見ながら本日五本目となるナタデココジュースを飲みきった。

「着きましたよ~!」

先頭を歩く巳竹がこっちに振り返り声を張り上げながら笑顔で手を振ってくる。

この暑い中何であんなに笑顔で居られるんだ…?

そこそこ長い石段を登ると、小さくも大きくもない一般的見た目の寺に着いた。

今回ここに来た目的は古いノートの読めないページや、イーナがどういった存在なのかを調べる事。

イーナと出会った日以来色々と調べてはきたものの、わかった事は人ではない事や何が好きで何が嫌いかくらいである。

「ちょっとでも何かわかると良いな。」

俺は遅れて階段を登りきったイーナに振り返り言うと、

「物、幽霊、人間、その他、どれだったら良いと思ってる?…私はイーナと呼ばれてきた。だから、海月にとって私はイーナであって欲しい。」

そう真剣な顔で返してきた。

勘違いされてしまったか。

「先輩は口下手ですねぇ~。イーナちゃん。幽霊だったら、病気とか色々心配しなくていい事や逆に心配する事もあります。でもそれがわからなかったら、心配すら出来ないじゃないですか。」

なんて言えば良いか少し困った俺を見て、巳竹は笑いながらイーナの側に行きそう言い頭を撫で…ようとして避けられている。

「えぇ~!?ぽふぽふ撫でるくらい良いじゃないですかぁ!!前は尻尾も触らせてくれませんでしたし!」

逃げるイーナを追いながら巳竹は少し寂しそうにそう言って、しばらく走り回っていた。

「巳竹の体力すげぇ…。」

神社の影に入り休みながら呟いて居ると、巳竹はこっちに来て小声で

「ふふっ…先輩。呪術系に詳しい寺への案内と、これで借し二つです。」

とか言ってこっちを見てくる。

ジュースでも奢れと?

「おぉ!なんじゃ騒がしいと思ったらお嬢さんか。また怪談聴きに来たのかい?ほどほどにしないと憑かれてしまうぞ。」

声がして前を向くとお坊さんらしき老人が立っていた。

巳竹は行く先々の神社や寺に行っては御払いついでに怖い話を聴いている。ここでも同じ事をしたのか。

「いえいえ。今回は不思議な子を連れて来ました。後、知りたい事を調べに。」

お坊さんは巳竹の言葉を聞いた後イーナを見て、驚いた顔をした後

「ここでは暑いだじゃろう。長い話になりそうだ。こっちへ。」

丁寧な口調で寺の中へと案内してくれた。

・・・

「ふむ…まず始めに言っておこう。そこの子は生物でも幽霊でもない。その間じゃよ。」

お坊さんは古いノートに目を通しながら言う。

少し埃っぽい木造の寺の中、座布団の上に正座しながら話を聴くのはなかなか珍しい経験かもしれない。

お坊さんは話を続ける。

「昔何処かの港で漁を生活の糧にしていた村があった。その村に住む者の中に漁に出た息子を嵐で失った母親が、息子を蘇らせようと行った呪術があったらしい。黒魔術に近いような呪術じゃ。」

巳竹も知っている話らしく口を挟む。

「あ!それ知ってます!でもそれって、結局息子じゃなくて気持ち悪い腐敗臭のする化物が出来ちゃうって話ですよね?」

巳竹の言葉に頷きお坊さんはまた話続けた。

「その呪術に改良を加え、さらに死体や骨ではなく物を媒体とし命に関わる対価を払うようにした結果その子のような者が生まれた。そうこのノートには詳しく書かれているようじゃ。霊でも生物でも無いので疑似生命と言う表現は間違った解釈じゃが。古い文字で、私のような年寄りでも一部の人しか読めんだろう。作り方の部分だけは読めるように書かれているのが不思議じゃ。」

命に関わる対価?

そんな物払った覚えなんてない。

思わず声が震えた。

「な、何ですか?命に関わるって、そんなの」

俺が言い終わる前に巳竹は小さい声で

「あぁそれで先輩にも八神さんにも居ないんですね。」

と呟く。

何だ?居ないって?

俺の疑問の答えは俺が訊く前にお坊さんが言う。

「守護霊じゃよ。本来なら、守護霊が全く居ない人などまぁ珍しい。普通の家系の者は亡くなった親族や飼って居た犬などの守護がある。じゃがお前さんにはそれが無い。対価として失ったんじゃよ。」

なんてこった。

たまに巳竹の後ろに居る黒いフードの骸骨、あれ守護霊か!

色々見えるようになってしまったのに、俺にはそれから身を守る術が無い?

呆然とする俺を横目で見ながら巳竹は首を傾げて話す。

「守護霊が消えたから先輩は私みたいに見えるようになったんですか?でも不思議ですねぇ。先輩に霊が憑いてるの見た事無いんですけど。」

仏像などを見飽きたのか、イーナが隣りに来て座った。

「弱い霊はその子が祓ったり、追い返したりしとるんじゃろうて。じゃが、見えるようになったのはその子の側に居過ぎたせいじゃ。人に霊感を持たせてしまうほどその子の力は強い。余程の事が無い限り側に居る者が憑かれたりする事は無いじゃろう。」

お坊さんはイーナを見ながら溜息混じりに言う。

それを聞いて俺が慌てて

「あの…じゃあ、イーナが風邪とかひいたらどうなるんですか?」

と言うとお坊さんはそれを聞いて笑いながら

「風邪、風邪か?はははっ!人でも霊でも無いのに病気、それも風邪なんてかからん。お経を聴いて身体が透けたりはするかもしれんが成仏もせん。それよりお前さんがその子からあまり離れんよう気をつける事の方が重要じゃな。」

そう答えた。

・・・

色々話を訊いていたら夕方になってしまっていた。

来た道を戻り駅まで戻る途中。

巳竹は長い黒髪を夕方の少し冷たい風になびかせながら、後ろ歩きをして話かけて来た。

「先輩、祓うってどうやってるんですかね?ほら、イーナちゃんは先輩によってくる霊とかを祓ってるって言ってたじゃないですか!」

確かに、それは気になる。

祓うと言うと神社で巫女さんが、紙の付いた棒を振り回している姿しか想像出来ない。

「イーナも紙の付いた棒振り回してる…とか?まぁみた事ないが。」

森のある方を見ながら少し後ろを歩いて居たイーナに振り返り訊いてみると

「違う。」

いつもよりさらに冷めた視線を森に向け続けたまま否定されてしまった。

森なんて別に珍しくもないだろうに。それとも、森に何か居るのか…?

イーナの側まで行き、隣りで同じ目線になるよう少し屈んで同じように森の方を見ると何か動くものが見える。

イーナは布地の薄いポンチョのような羽織り物に手を突っ込むと、ただでさえ低い背を屈んで低くした後

「あれはあまり近くで見ない方が良い。向かえうつからそこに居て。」

と言い残し森の方からこっちに向かってくる白いもの目掛けて走っていった。

自転車すら通れない田んぼの道とも呼べない細道を疾走するイーナの手には、夕日を反射して輝く物が握られている。

イーナの誕生日に八神がプレゼントしていたものだ。

白い動く物は人のような姿をしているが日を浴びていない人のような異様な白さで、イーナは走り出してから一切失速しないままサバイバルナイフを白いものに突立てる。

しかし、金属がぶつかり弾かれる音がしてイーナは2メートル後ろに飛ばされ器用に身体を丸めて無事着地した。

手元にはもう光る物は無い。いや、正確には折れてしまって根元しか残っていない。

少しずつ、しかし確実にこちらに近付く白いもの。

白いものの姿がはっきりとは言えないまでも明らかになって来た。

白い肌、露出度が高いとかよりもっと異常な物が目にはいる。目が一つしかない。それも、通常の生物とは違い縦に長く目が付いている。

何とも言えない恐怖、悪寒、そして不安。

白いものが何かを言っているのが聞こえる。

イーナのあまり見ない方が良いと言う忠告を思い出し何とか白い肌の化物から目を逸らした俺は、まずイーナを見た。

一瞬困った顔のイーナが写る。

次に少し離れた場所に居た巳竹を見た。

三話「17にできる事(邪視 後編)」

酸ヮ『17にできる事(邪視 後編)』

巳竹は何か呟きながら涙を流し、それを拭うでもなく自身の首を絞めようとしている。

俺は慌てて巳竹の方に走り巳竹の両手を掴んで動きを封じた。

「お、おい!何やってんだ!?」

思わず声を荒げて言う俺の目を巳竹視点の定まらない目をして

「死にたい死にたい死にたい死なせてください死に…ころ…殺し」

と呟き続けている。

両手を掴んだまま大声をかけて

「しっかりしろ!」

肩を揺らしてみても巳竹は呟くのを止めただけで泣き続けていた。

「海月!巳竹はしばらく動けない。下を向かせて、話を聞いて。」

声をかけられて驚いて振り向くと、イーナがすぐ後ろに居た。

白い化物はさらに近付いて来て居る。

「見ちゃだめ!見たら巳竹みたいになる。」

白い化物の位置を少し確認しかけただけだったが、イーナは真剣に怒り俺の右手を両手で掴んで言う。

続けて今度は落ち着いた声で

「今から、私は媒体の姿になるからちゃんと持って引金を引いて。位置は私が言う。目は開かないで。もし見てしまったら、巳竹と海月は生物じゃなくなる。」

そう言いながら俺の目を覗き込んでくる。

目が合った一瞬の出来事だ。

俺の震える手を握る幼い手はプラスチック製のM4タイプグリップに変わり、見覚えのあるカスタマイズが施されたMk17スカーヘビーライフルがその重量で俺の手の震えを物理的に止めていた。

17を構えて化物目掛けて目を閉じて撃てと、そういう意味か。

久しぶりに握る電動ガンは重い。

いや、実銃同様ハーフメタル(銃の半分が金属、もう半分が強化樹脂やプラスチックの物)なはずだから重く感じるのは命が懸かっているからだ。

震えて銃を落とさないよう大声で

「装填!構え!」
と言いながらストックをしっかり肩に押しつけて目をつぶり構える。

誰かに見られていたらきっと変人に思われていたに違いない。

握る銃は冷たく、その冷たさが銃から離れ身体を包む感覚がして思わず目を開こうとすると耳元で

「ダメ我慢して。」

イーナの声がした。

「フルオートに切換えて、銃を左に少し下向きで構えて。すぐ撃ちながら右に銃を振って。」

またイーナの声が言う。

近くで何か呪文のような言葉を言いながら近付いてくる存在の気配がして、俺は慌ててイーナの指示どおり親指でレバーを押しカチカチと2度音がしたのを確認すると左下から右へ引金を引きながら銃を振った。

「イギャゥアァああああ!!」

次世代電動ガン特有のボルトが前後する音と弾が撃ち出される音に混じって、肉がはじける音と叫び声が聞こえる。

しばらく呆然としていると、前方から

「もう良い。終わった。」

と声がして目を開くと右手には銃のグリップではなくイーナの手が握られてていた。

・・・

帰りの電車の中、巳竹はスマートフォンを弄りながら

「あれって邪視ですよね。」

と呟いていた。

邪視とは、見ただけで人を殺せる者の事を指す。

昔のアニメの設定にありそうな話だが、怪談としても有名だ。

「邪視…俺が祓ったのか…?」

俺は椅子に持たれるように座りながら、俺は膝の上に座るイーナに訊く。

イーナは自身の尻尾を掴んで頬擦りしながら

「うん。私だけじゃ祓えてなかった。身体を銃に戻す為に海月に半分憑いたけど身体大丈夫?」

うれしそうに、しかし心配そうな声で答えた。

銃を握ったいた時の身体の冷えは、イーナが半分憑いていたからだったのか。

人でも霊でもない中途半端な存在だからこそ、半分憑くとか出来るんだろう。

しかし、銃とはいえ威力規制で人肌に痣すらつけられるか怪しいような威力しかないもので化物なんて祓えるものだろうか?

「身体は何とも無いが…不思議だ。BB銃でどうやって祓ったんだ?」

流石に疲れて眠くなりながら言う俺の言葉を聞いて、イーナは

「良かった…。初めてやったから私にもよく分からない。説明出来ないけど弾の威力は身体に力をいれる時と同じみたいに自由に出来る。」

安心したように落ち着いた声でそう応えた。

隣りを見るとスマホで怪談検索するのにも飽きたのか、巳竹はノート2冊を枕にしながら静かな寝息をたてている。

しばらくすると電車は駅に着いた。

辺りを見ると、斜め左前のスーツ姿のいかにも社会人なりたてのサラリーマンといったような人の膝の上に小学生低学年くらいの男の子が座っている。

男の子が不機嫌そうな顔をしてこっちを見ているのが気になったが、俺は

「着いたぞ。」

と言いながら巳竹を揺すって起こし電車を降りた。

降りる直前男の子の前をイーナが通る時男の子の声で

「折角簡単に連れていけそうだったのに…」

と言いう声が聞こえ、イーナが小声で

「あげない」

と言っていたのが気になった。

煮話後日談『17とナイフ』

この日の夜はなかなか寝る事が出来なかった。

言うまでもなく、恐怖体験のせいなのだが。

特にやる事も無く一階の台所の冷蔵庫を開けて麦茶をグラスに注ぎリビングを見ると、明かりをつける事も無くベランダに座り耳と尻尾を風に揺らす後ろ姿が見えた。

「イーナ、お前も寝れないのか。」

声をかけるとこっちを振り返り

「眠くならないから。」

と少し困ったような表情で言う。

ナイフを握っていたとは思えない幼く小さい手には、刃の折れたナイフではなく緑色の小型スピーカー付き音楽再生機が握られている。

隣りには革製の短い鞘と、いつ拾ったのか折れた刃とナイフの柄がポンチョのような羽織り物に包まれて置かれていた。

「折角貰ったのにもう折っちゃった…。」

イーナは少し俯いた暗い表情で言う。

「そんな落ち込む必要ないと思うぞ。そのナイフと同じ型のやつ、俺も二本持ってるし一本やるよ。守って貰ったしな。」

そう言いながらリビングのタンスの引出しを探ると二本とも見つかった。

このサバイバルナイフは小学生だった頃に基地ごっこの集まりで、仲間の証しとして八神が「5人で持とう!」とか言い出して渡して来た物だ。

イーナに渡したのも少なからずあの時と同じそう言う意味が込められていたんだろう。

革製の鞘と刃の付根にはRESQVIVAL(レスキューバイバル)と書かれていて、刃の付根の方にはさらにSCOUT(スカウト)と書かれている。

5人のうち4人は俺を含めイーナと出会ったきっかけを作った人だったわけだが、後一人は誰だっただろうか?

思い出せない後一人の物であったナイフが、どういう訳か今俺の手元にある。

そのナイフをイーナに渡して隣りに座ると、イーナは小さく

「ありがとう。大事にする。もう折らない。」

と言った。

ベランダから見える夏の夜空には星が多く輝いている。

空気が綺麗で町の明かりが少ないな田舎ほど星空は輝きを増すというのだから、この町の田舎っぷりはなかなかのものらしい。

イーナは隣りで音楽再生機のタッチ画面を操作している。

「良ければ何か歌ってくれないか?一曲聴いたら寝る事にするよ。」

俺のお願いをイーナは頷きで応えて、小さく息を整えた後歌い始めた。

(BGM 君の知らない物語)





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