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一話「憑物」

一話『憑物』

イーナは眠らない。眠くならない。

眠らない子は大人になれないと世間では言うみたい。

それは少し違うけれど本当だと思う。

正確には眠れない子。

イーナの身長は一年で一ミリも変わっていない。

知識はいくらでも覚えられるけれど、果たして身体が大人にならないイーナはどれだけ学べば大人なんだろう?

大人として仕事を持つ海月が眠りについた頃。

ベランダに座り、小さなアイポットナノで彼への自分の気持ちに一番近い歌詞の曲を探して歌った後、革製の鞘のついたナイフを眺める。

私で居た頃より狐の耳を持つイーナで居る今の方が歌も声もより聞き取れるようで、音程を覚えるのは簡単みたいだ。

今日は私からイーナになって丁度一年になる日。

このアイポットナノも、ナイフも、その記念のプレゼントだと海月達は言っていた。

鞘からナイフを抜くと、ナイフの先が月の光を反射して光る。

「れす…きゅー…ばい…ぶる?」

ナイフの根元に何か英語が書かれているけれど、英語をほとんど学んで居ないイーナにはその意味がわからない。

でも、このナイフは海月も持っていてお揃いなんだって事は知っている。

何度も海月に内緒で海月のナイフを借りた事があるから。



海月の家で暮らし始めて二ヶ月くらいした頃。

海月が高熱で寝込んでしまった。

イーナは覚えたての御粥作りに挑戦したりしながら海月に声をかける。

「海月、どうすれば良い?どうすれば海月は元気になるの?」

あの頃のイーナには今の世の中の知識がまだまだ足りなくて、薬局の場所も薬の種類もあまり知らなかった。

それでも海月が常備していた薬箱から風邪薬を探して海月に飲ました。

それでも熱は下がらない。イーナは焦りながら何が出来るか考えていた。

携帯電話はまだ海月が使っているのを見た事しかなくて使い方もわからない。

「うぅ…い…な…なに……いる…」
海月の声を聞いて台所から寝室に戻ると海月は意識を失ってしまっていて、イーナはその時初めて何が海月が高熱を出す原因になっているのかに気が付いた。

私だった頃と同じようにイーナの目でも人や物を通り抜ける透明な人型や、動物のような変なものが見える。

イーナではなく自分を私としてしか認識して居なかった頃、あれがたまに生きている人にくっついて何かしているのを見た事がある気がする。

まだこの頃海月達にはこれは見えていなかったみたいだけれど、海月の枕元に立つ透明な喪服の女の人が原因なんじゃないのかな?

その喪服の女が意識を失っている海月の身体に手を突っ込んで居る。

気が付いたらイーナは喪服の女に体当りをしていて、ぶつかる感覚がした後すぐに払いのけられて箪笥に頭を打ってしまった。

痛い。すごく痛い。

成長出来ない小さな身体は今より強い衝撃を受けたらきっと壊れてしまう。

それは嫌。涙が出そう。

でもすぐに立たなきゃ海月はきっとあの喪服の女や、昔の自分と同じように死者になってしまう。

きっと海月はそれを望まない。

'可愛い.そう言う海月。

'イーナ,そう呼んで自分が何か教えてくれる海月。

イーナは手に力を込めて膝を立てる。

イーナと呼んでくれる人が居なくなったら、きっとまた居場所が無くなって彷徨い歩く事になるんだろうな。

あの広い森で、私として彷徨っていたあの頃探していたのは'人間じゃなくなった自分の側に居てくれる人,だったんじゃなかったっけ?

さらに力を込めたら立ち上がれた。

イーナがぶつかった衝撃で、箪笥の小さな引出しが開いてしまっている。

その中から革製の鞘に入ったナイフを手に取り、鞘からナイフを抜いて走り喪服の女に突き立てた。

「うぅぅぅぅ」

喪服の女が唸る。

それでもイーナはナイフを握り、より深く力を込めて刺す。そして力が緩まないように叫ぶ。

「私はまだイーナで居たい!呼ばれたい!だから」

体重を手元に乗せて全身を使って刺したままさらに叫んで捻る。

「邪魔しないで!」

人型を維持しきれなくなった喪服の女は消えていく。

きっとあの女の霊も居場所が欲しかったんだろうな。

でも、無いから作ろうとしたんだ。

生きてる人を殺して自分と同じにする事で居場所を作ろうとしたんだ。

一人は寂しいな。

「…イーナ、何か凄く疲れて喉が渇くから水持ってきて。」

ナイフを握ったまま呆然と立ち尽くすイーナを、いつの間にか気が付いた海月が呼んでくれる。

イーナはナイフを咄嗟に隠して

「わかった。待ってて!」

と、応えて寝室から出てナイフを鞘に入れる。

そのナイフを服の中にしまうとイーナは台所に走った。



思い出に浸るのを止めて、イーナは服の中に隠していた方の海月のナイフをこっそり箪笥に戻す。

長い間借りていてごめんなさい。

そう心の中だけで寝息をたてる海月に謝って、箪笥の隣りにあった本棚から英和辞書を開く。

れすきゅー。意味は救助。救出。救援。

ばいぶる。意味は聖書。権威ある書物。

英和辞書を元の場所に戻してベランダに戻ると、庭に老人の顔をしたシーズーが居た。

その人面犬はイーナを見ると「お、居た居た。」なんて言いながら笑顔で器用に右前足を使い手招きする。

「チョコ、予知のとおりになったよ。」

イーナはベランダに座り、人面犬を見る。

イーナにチョコと呼ばれた人面犬はイーナのすぐ前まで歩いて来てお座りをしてた。

ベランダに乗らないのは、外を歩く犬として人の住む家を汚さないというプライドがあるからみたい。

チョコとは初めて海月の家に来た日の夜に出会った。

チョコはこの辺り一帯を縄張りにしていて、他の人面犬を入って来ないようにしたり、監視したりしている。

チョコの飼主は時々本人に関係無い予知夢を見るらしく、チョコはそれを関係ある人に伝えてお礼を貰うのを楽しみに生きて(死者だけど)いるらしい。

昨日はイーナに海月が怪異に遭うと伝えに来たから、そのお礼を貰いに来たんだろう。

「うんうん、じゃが腑に落ちぬ顔をしている所を見ると何も出来なかったか。眠そうな目をしてるのはいつもの事じゃが。」

チョコはイーナを心配するように、困ったような表情でこっちを見て言った。

「うん。海月と一緒に居た巳竹が上手くやったから…。イーナは巳竹が嫌い。巳竹は狂ってるくらい心霊体験が好きだから、きっといつか海月を死に近付ける。」

イーナが溜息を吐きながら話すと、チョコは苦笑いして前足で頭を掻く。

そして諦めたように

「じゃあ今日は歌でも聴いて帰るとしよう。何か歌ってくれないかい?」

と、言って垂れた耳を動かしていた。

(BGM:クワガタP×buzzG 防衛本能)
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